歳を取るとアルコールの分解能力が低下するって本当?

こんにちは。熊本の禁酒カウンセラーの溝尻啓二です。

皆さまは「歳を取るとお酒に弱くなる」という話を聞いたことはありませんか?

私の知り合いの中高年の方にも若い頃は血気に任せて「病気が怖くて酒が飲めるか!」と言って憚らない酒豪の人達がいます。

年齢を重ねてからも「お酒は百薬の長だ!」と豪語して、傍から見る限りでは、若い頃と同じペースで飲んでいるように感じます。

しかしそんな酒豪の人達からも「最近、お酒に弱くなった」、「昨日飲んだお酒が抜けなくなった」、「若い頃は何杯でも飲めたのに、近頃は………」という話を聴きます。

なかなには、高齢になってもガンガン飲める酒豪の方もいらっしゃいますが、その様な方にもお話を伺うと「昔よりは確かに弱くなったなあ」とおっしゃいます。

ボトル一本開けても顔色一つ変えないような酒豪の方でも、「近頃は昨日飲んだ酒が、翌日に残るようになった」と口を揃えておっしゃいます。

どのような酒豪の方も、傍から見ていると気付かないだけで、ご自身では「昔よりお酒に弱くなった」と実感している様子でした。

以前に書いた記事で、アルコールを分解能力する能力や、お酒に強い体質・弱い体質は生まれつき遺伝子で決まっていると紹介しました。

(詳しくはこちらの記事:お酒飲む人必見! あなたはお酒に強い体質? 弱い体質? 実はそれだけじゃない 5つの体質!

(詳しくはこちらの記事:日本人お酒に弱い人種だった お酒に弱いメリットを紹介!

アルコールへの耐性というのは持って生まれた遺伝子で決められた先天的な体質なので、後天的に強くなることはありません

逆に言えば、もともとお酒に強い体質の人は、弱くなることは無いということではないのでしょうか?

なのにどうして、歳を取ると「翌日までお酒が残るようになった」や「お酒に弱くなった」と感じてしまうのでしょうか?

今回はそんな「加齢でお酒に弱くなるメカニズム」をお伝えしていきたいと思います。

「酒酔い」には二種類ある

お酒に含まれるアルコールを摂取すると、人間は「酔い」ます。

そしてこの「酒酔い」には二種類があります。

「脳に作用する酒酔い」「身体に作用する酒酔い」です。

(詳しくはこちらの記事:「身体の酒酔い」と「脳の酒酔い」。お酒には2種類の酔いがあった

脳に作用する酒酔いはアルコールの本来の作用で「麻酔効果」で、脳の機能を麻痺させるというものです。

軽度の酔いならば、脳の抑制が解除され爽快な気分が味わえたり、陽気な気分になれたりする効果がありますが、重度の酔いになると昏睡状態となり、最悪の場合、生命活動を司る脳の機能が麻痺して死に至ります。

一方、身体に作用する酒酔いは、アルコールを分解した後にできるアセトアルデヒドによって引き起こされています。

アセトアルデヒドは有毒物質で、人体にはアルコール以上の猛毒であり、発がん作用があるとされています。

この毒性の強い物質が分解されずに身体に溜まることで悪酔いの症状(吐き気、めまい、頭痛、嘔吐)が現れるのです。

つまり、アセトアルデヒドを素早く分解できるということは、悪酔いの症状を感じにくいということなで、大量にお酒を飲むことが出来るわけです。

一般的にお酒に強いといわれる人は、アセトアルデヒドを早く分解できる人のことを言います。

そして、お酒に強いことと、アルコールの分解が速いということとは決してイコールではありません。

アルコールを分解する能力と、アセトアルデヒドを分解する能力は違う

お酒を飲むと、摂取したアルコールは肝臓でアセトアルデヒドに分解され、そのアセトアルデヒドも同じく肝臓で無害な酢酸に分解されます。

その際、アルコールとアセトアルデヒドを分解するのはそれぞれに対応した「酵素」です。

アルコールADH(アルコール脱水素酵素)によって分解され、アセトアルデヒドALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)によって分解されます。

そしてこのふたつの酵素の活性(働き具合)によって、アルコール、アセトアルデヒドの分解能力が変わってきます。

ADHの活性が髙ければアルコールを早く分解できますし、ALDHの活性が高ければアセトアルデヒドを早く分解できることになります。

日本経済新聞 プラスワンより

上の図のようにADHとALDHにはそれぞれ3タイプのがあり、組み合わせによって9つのパターンが存在します。

例えばADHが高活性型でALDHが活性型(Aタイプ)の場合、アルコールの分解が速く、アセトアルデヒドの分解も速いので悪酔いもせず、相当お酒が飲めるタイプといことになります。

ADHが低活性型でALDHが活性型(Dタイプ)の場合、アセトアルデヒドの分解は速いので悪酔いの症状を感じずお酒を飲めますが、アルコールの分解能力は遅いので翌日にお酒が残りやすいといった感じです。

このように、「脳に作用する酒酔い」「身体に作用する酒酔い」は別々のものなのです。

そして、これらの酒酔いに対する「酵素」の働きは遺伝子で生まれつき決まっている体質のため、後天的に鍛えて強くなることはありません。

意図的に「酵素誘導」を繰り返すことで、一時的にお酒に強くなることもありますが、それはアルコールを分解するADHや、アセトアルデヒドを分解するALDHが活性化しているのではなく、ミクロゾーム酸化系(MEOS)チトクローム(CYP)と呼ばれる、いわゆる「薬物代謝酵素」が分解を助けてくれているからです。

(詳しくはこちらの記事:お酒は鍛えると強くなるは本当 危険な酵素誘導!

意図的に「酵素誘導」を繰り返してお酒に強くなるのは非常に危険な行為なので、お勧めはできません。

酔いの度合いを決めるのは、アルコールの脳への浸透度

酔いの度合いは、脳内へのアルコール浸透率………つまり脳の麻痺状態で決まります。

ですが、実際に脳内にどれだけアルコールが浸透しているかを計ることは不可能です。

そこで代わりに、血中アルコール濃度を測ることで酔いの度合いを判定します。

血中アルコール濃度とは、お酒を飲んだ後、吸収されたアルコールが血中に移行した状態の濃度のことで、脳のアルコール浸透度と血中アルコール濃度の数値はほぼ同じと言われています。

上手にお酒を飲むコツは、急激に「血中アルコール濃度」を上げないようにすることでしたね。

(詳しくはこちらの記事:お酒を飲み過ぎる人必見! 二日酔いの予防・前編!

(詳しくはこちらの記事:お酒を飲み過ぎる人必見! 二日酔いの予防・後編!

血中濃度が上がるという事は、酔いが回るということ。悪酔いや二日酔いの原因にもなります。

加齢による肝機能の低下が原因

 

 

体調が良くないのときにお酒を飲んだら、アルコールが翌日まで残ったなどの経験はありませんか?

それはズバリ、体調不良で肝機能が低下していることが原因です。

肝機能が低下するとアルコールの分解能力が低下するというのは皆さま周知の事実だと思います。

そして、このアルコールの分解に重要な肝機能は「加齢」でも低下していきます。

つまりアルコールの分解能力が低下する一番の原因は、加齢による「衰え」です。

一般的にアルコールの分解速度のピークは30代で、それ過ぎると徐々にアルコールの分解能力は低下して行くと言われています。

加齢によって、見た目だけでなく、肝臓も歳を取っているということですね………(涙)。

肝臓の機能が低下すると、アルコールを分解するスピードが低下してしまうので、若い頃と同じ量を飲んでも、血中アルコール濃度が高くなってしまいます。

「酔いの度合い」というのは血中アルコール濃度で決まるのでしたね。

肝機能が低下した状態で飲酒を進めれば、血中のアルコール濃度はどんどん上昇し、「酔いの度合い」を深めていくことになります。

血中アルコール濃度が高くなるということはつまり、それだけ酔いも深くなるということ。

若い頃と同じようにお酒を飲んだのに、翌日にお酒が残っていると感じるのはそのためです。

さらにもうひとつ、お酒に弱くなる原因………

それは、

加齢による体内の水分量の低下

熱中症環境保護マニュアル2014より

人間の身体がどのような成分で出来ているかご存知ですか?

大人ひとり分として、人間の身体の構成成分は、

水    ………35ℓ

炭素   ………20g

アンモニア ………4ℓ

石灰   ………1.5㎏

リン   ………800g

塩分   ………250g

硝石   ………100g

硫黄   ………80g

フッ素  ………7.5g

鉄    ………5g

ケイ素  ………3g

その他少量の15の元素………

で出来ていると、某〇の錬金術師が言っていました(笑)。

この構成成分でも大量に使われているのは「水」ですし、上の図で見ても分かるように人間の身体のほとんどは「水分」で出来ています。

体内の水分比率を見てみると赤ちゃんの頃は80%と非常に高いのがわかります。

赤ちゃんの肌がつやつやで瑞々しいのは体内の水分比率が高いからだったのですね。

しかしこの体内の水分比率も「加齢」とともに低下して行きます。

成人した頃には男性なら60%、女性なら55%まで低下し、高齢者になると50~55%にまで低下してしまうのです。

歳をとるにつれ、肌などに皺が増え、乾燥しやすくなるなどの身体の変化は、体内の水分量の低下が影響しています。

そして、この体内の水分の低下がお酒の分解にも大きく関係してきます。

なぜなら、飲酒したアルコールは体内の水分にアルコールが溶け込むからです。

例えば10gのアルコールを1リットルの水と2リットルの水に加えた場合、後者の方がアルコール濃度は低くなりますよね。

このように体内の水分量が少なくなるということは、アルコールを溶かす対象の量が減ることになるわけですから、血中アルコール濃度が高くなりやすいのです。

また、加齢とともに筋肉量も低下し、脂肪がつきやすくなってきます。

実は体内の部位別でも水分率が違っていて、筋肉が約75%なのに対して脂肪組織の水分率は約10〜30%と言われています。

つまり、体内の部位別の水分率は脂肪と筋肉で約45%以上差があるのです。

これら体内の部位の水分にも当然アルコールは溶け込むわけですが、アルコールは筋肉には溶けやすく、脂肪には溶けにくい性質があります。

筋肉量が落ちて脂肪が多くなれば、体内の水分率が低下してしまうので、アルコールが溶け込めるモノの量が減るため、摂取したアルコールが薄まりにくくなります。

結果、血中アルコール濃度が高くなってしまい、分解が追い付かず「抜けが悪くなった」「翌日に残った」と感じるのです。

アルコールによる利尿作用の影響

アルコールには利尿作用があります。

腎臓は、水分を補給しても水分を「尿」として水分を体外に排出します。

この尿が増えることを「利尿」と呼びます。

つまり、利尿作用が強い飲み物はいくら飲んでも、思ったほど水分補給にならないということです。

アルコールは腎臓の血液の循環を増やし、尿を増やしてしまいます。

もともと体内の水分量が少ない所に、この利尿作用で尿の量が増えれば、身体はますます脱水が進むことになります。

結果として、血中のアルコール濃度はより高くなってしまいます。

増える高齢者のアルコール依存症

最近の医療機関の調査によると、高齢者のアルコール依存症の人が増えてきているそうです。

これまでの記事でもお伝えしてきたように、高齢者は加齢による肝機能の低下でアルコール分解速度が遅くなっていたり、体内の水分量が少なくなっていることもあって、少ない飲酒でも酔いが深くなってしまいがちです。

少量の飲酒でも、大量飲酒と同じような効果になってしまう場合があるのです。

アルコール依存症になりやすいお酒の飲み方は、大量のお酒を、長期間にわたって飲み続けることです。

少量の飲酒でも酔いが深くなると、アルコールの代謝に時間が掛かってしまいます。

自分では控えめにしているつもりでも、実は年齢を考えると飲み過ぎだったという場合もあります。

すると体内にはまだアルコールが残ったままの状態で、さらにお酒を飲むということが起こり、一日中アルコールが体内にある状態になってしまいます。

このように一日中アルコールが体内にある飲み方を「連続飲酒」といいますが、この状態が続くとアルコール依存症への道は一気に加速してしまいます。

個人差はありますが、肝臓は1日にアルコール150gまでなら分解出来るとされています。これはビール大瓶なら5本、ウィスキーダブルなら5杯、清酒なら5合程度ですが、

高齢者の場合、実は3合程度でも同様の状態になってしまうこともあるそうです。

つまり、高齢者は少ない飲酒量でもアルコール依存症になりやすいということになります。

まとめとして

お酒が好きな人には残念なことですが、事実として年を重ねるとお酒に弱くなってしまいます

その原因は加齢による肝機能の低下や体内の水分比率の低下によるものです。

若い頃は酒豪と誇った方や、お酒が好きでたまらないという方には受け入れたくない事実かもしれませんが、加齢による衰えは誰にでも訪れる生理現象です。

こういった歳を取るとお酒に弱くなるという事実を知らずに、歳を重ねても、気持ちは若い頃のままだと、大きな落とし穴に落ちてしまう可能性があります。

若い頃と同じ気持ちでお酒を飲んで、翌日アルコールが抜けきれずに飲酒運転などは典型的な例です。

他にも飲酒による転倒などのリスクもあります。

酔いが深くなれば、ふらつきが酷くなって転倒する危険が高くなります。

とくに高齢者は転倒しやすいのに、飲酒でさらにそのリスクが高くなってしまいます。

飲酒による転倒が原因で骨折して、寝たっきりになるというケースは多いようです。

また、高齢者の場合、アルコールの飲み過ぎで尿や便を漏らしてしまうという事態になることも事も少なくありません。

このような失敗は自信喪失に繋がってしまいます。

このような事態に陥らないようにするためにも、歳を重ねるほど飲酒量を減らしていくことが望ましいといえます。

気をつける点として、「翌日残っているな」と思う量は飲まないことです。

これには個人差がありますので一概には言えませんが、自分で飲んだお酒を量の記録を付けていくなどを何回か繰り返していると、このくらいの酒量なら翌日に残る、これくらいなら大丈夫という線が見えてくると思います。

それを自分で見極められたらしめたものです。

それは自分にとっての適量、翌日に残らない飲み方に気づいたという事。飲酒コントロール出来るようになったということです。

また、飲酒の記録を視覚化すること自体も節酒に繋がります。

次に飲み方です。

お酒はゆっくり飲むようにしましょう。そして、食べながら飲むようにしましょう。

そうすることで急激に血中アルコール濃度が上がるのを防ぐことができます。

そして、アルコール度数が高いお酒をストレートで飲むのは避けるようにしてください。

一貫してアルコール度数の低いお酒を選ぶのが望ましいです。

そして脱水を防ぐために、お酒を飲みながら水を飲むことも大切です。

昔はお酒を飲みながら水を飲むなんて軟弱者だと言われたものですが、おいしく飲むために「水をしっかり飲む」のが今の常識です。

時代は、大量に飲むから、おいしく飲むへとシフトしていっているように思います。

実際に最近の飲み会の席などを観てみると、テーブルにはズラーっと水のグラスが並んでいます。

「お酒の横に水」は酒好きの証といえます。

これまででお伝えしてきたように、アルコールを摂取すると利尿作用で飲んだ以上に水分が身体から排出されてしまいます。

それを補うためにも、飲んだお酒と同量程度の水を飲むようにしましょう。

また、水を飲むことで体内のアルコールを薄める効果もあります。

飲酒後のケアも大事です。

アルコールの分解にはブドウ糖が使われるため、飲酒後は低血糖になりやすいので、スポーツドリンク等を飲むことが効果的とされています。

血中にアルコールが大量に存在していると、肝臓は飲み終わった後、睡眠中もアルコールを分解し続けます。その分解を助けるのがブドウ糖です。

塩分や糖分の濃度が人間の体液に近く、素早く吸収されるように設計されている経口補水液やスポーツドリンクは、まさに飲酒後の水分補給にはぴったりといえます。

また、できればお酒を飲むのは寝る4時間前までに済ませ、できるならば飲酒から就寝までは6時間くらい開けた方が無難とされています。

 

と、ここまで色々書いてしまいましたが、「こんなのいちいちお酒飲むのにめんどくさいよ………」思われるかもしれません。

ですが、肝臓の機能や体内の水分比率を若い頃に戻すことはできません。

お酒で人生を台無しにせずに、上手に付き合っていこうと思うならば、酒量を減らしていくようにするのが一番の方法なのです。

お酒に弱くなるというのは悲しい事実かもしれませんが、捉え方を変えてみれば、少量のお酒でも酔えるようになったということ。

ある意味、経済的になったと肯定的に受け止めることもできます。

忘れがちですが、お酒は「大量に飲むもの」ではなく、美味しい料理といっしょに「味わうもの」ではないでしょうか?

量が飲めなくなったのなら、「量から質」へと切り替えるなどして、少し高めのお酒に変えてみるなど趣向を変えてみるのもいいと思います。

いくらお酒が大好きでも、それで身体を壊したり残りの人生を台無しにしてしまっては意味がありません。

無理をせず、自分の身体の変化を受け入れ、年齢に応じた酒量を守るようにしましょう。

それこそが、細く、長く、飲酒ライフを楽しむ秘訣です。

禁酒カウンセリング tender~テンダー