お酒と健康 百薬の長とJカーブ効果

こんにちは。熊本の禁酒カウンセラーの溝尻啓二です。

お酒は昔から「百薬の長」と言われ、「ほどほどの飲酒ならストレス解消にもなり、健康にもいい」と、多くのお医者さんが太鼓判を押してくれます。

お酒を適量飲むと(もちろん個人差はありますが)お酒の主成分であるアルコールがLDL(悪玉)コレステロールを増加を抑え、HDL(善玉)コレステロールが増加することがわかっています。また、血管の拡張作用もあるので血流を促進し、疲労の原因である老廃物を促したり、血液が血管の中に詰まりにくくする働きもあります。

動脈硬化によって起る病気(心筋梗塞や脳梗塞)や、狭心症といった虚血性心臓病を予防する効果も確かめられています。

精神的な面でも、ビール中瓶一本、日本酒一合程度のアルコールなら爽やかで陽気な気分になり、コミュニケーションの円滑化につながりますし、話下手などで人前でいつも緊張している人の場合は、緊張をほぐしてリラックスさせてもくれます。

このように「適量のお酒」には様々な健康効果があります。

そんな、お酒と健康を語る上で欠かせないのが「Jカーブ効果」でしょう。

縦軸に死亡率、横軸に酒の量を記したグラフで、これによると「大量飲酒では死亡率が高くなり、飲酒量が減ると死亡率が減るが、飲酒量がゼロだと死亡率が上がる」という、「適量飲酒」の死亡率が底になるグラフが出来上がります。

そのカーブが「J」の字に似ていることから「Jカーブ効果」と呼ばれています。

この効果は人種・民族を越えて世界共通の傾向といわれています。

これが「適量のお酒は健康に良い」といわれる所以のようです。

なかにはお酒が「好きだから」、ではなく「健康にいいから」と飲んでいる人もいる程。もちろん「その両方!」という方もいらっしゃるでしょう。

そこで今回は、そんな「適量神話」ともいえる「Jカーブ効果」について紹介していきたいと思います。

Jカーブ効果とは

Jカーブ効果とは、簡単に言えば「適度のお酒なら、まったく飲まない人より長生きする」というものです。

もともとは1981年にイギリスのマーモット博士が発表した「飲酒と死亡率のJカーブ効果」という疫学調査でした。

つまり、お酒を全く飲まない人は意外にも死亡のリスクが大きく、適度に飲む人は最も死亡のリスクが小さくなり、適度を超えて飲むほどまた死亡のリスクは上昇するというものでした。

それをグラフに表すと上記の様な「J」のかたちになることから「Jカーブ効果」と言われます。

その後、1993年に米国保険科学協議会が各国の医療関係者が発表した研究結果を集約して分析したところ、一日にビールに換算して35ml缶で2~3本程度飲酒する人の死亡リスクが低かったという結果が出たそうです。

これには人種や性別、地域条件を超えた共通性が見られたといいます。

その研究結果は世の中の愛飲家達を歓喜させました。

嬉しいニュースは瞬く間に世界中に広がり、「適度の飲酒なら健康に良い」という、いわゆる「適量神話」が浸透していったようです。

お酒の健康効果

 

一般的に言われているお酒の健康効果は、食欲増進、血行促進、ストレス緩和、疲労回復、病気リスクの軽減です。

お酒とは? の記事でもお酒の効能について軽く触れていますが、ここでは代表的なお酒の種類別に紹介したいと思います。

日本酒

日本酒は他のお酒に比べるとアミノ酸が豊富に含まれています。

これは身体で生成できない必須アミノ酸であるリジン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシンの他、循環器系機能の調整や成長ホルモンの分泌を促すアルギニン、運動エネルギーの源になるアラニン、免疫力を高めるグルタミン酸など、様々なアミノ酸がバランスよく含まれています。

日本酒に豊富に含まれるアミノ酸には、動脈硬化や心筋梗塞、肝硬変といった生活習慣病の予防にも効果があることが、最近の研究で分かってきています。

また、日本酒の特徴的な成分に「コウジ酸」というものがあります。

これは日本酒の原料である「麹(こうじ)」から発見された栄養成分で、細胞を活性化させて老化を防いでくれる他、黒ずみやシミ、ソバカスの元となるメラニン色素の生成を抑制効果も期待されています。

焼酎

焼酎にはプラスミンという酵素を増やす働きを促す効果があります。プラスミンは肝臓で作られる酵素の一種で、血栓を分解する効果があるとされています。血栓を溶かすことで、心筋梗塞や脳梗塞の予防、血栓症の予防にもなります。

もともとアルコールにはプラスミンを増やす効果がるのですが、アルコールの中でも特に焼酎がこの効果が高いとされています。

また、焼酎の香りにはリラックス効果やストレス軽減の効果があるといわれています。

ワイン

ワインには多くのビタミン、ミネラル、ポリフェノールが含まれています。食品に含まれているビタミンやミネラル、ポリフェノール等は通常の食事だと30~40%しか吸収されませんが、ワインに含まれているこれらの成分は、ワインだと100%吸収されるといわれています。

ポリフェノールの特徴としてあげられるのが「抗酸化作用」です。

活性酸素には、老化などの生理現象だけでなく動脈硬化や脳梗塞などを引き起こす可能性があるとされています。これを除去するといわれている代表的な栄養素がポリフェノールです。

実際に、1人当たりの肉の消費量が世界一で、食事にはワインが常識とされるフランスで、なぜかフランス人は近隣国と比べると心臓病による死亡率が低いというデータが出ています。

この現象は「フレンチパラドックス」と呼ばれており、これはポリフェノールの「抗酸化作用」が関係しているのではないかといわれています。

ヨーロッパの研究では1日20~30gのワインを摂取するのは死に至るような深刻な種類の病気を予防するため、健康を守る効果があると結論付けているそうです。

ビール

ビールの主原料は水、麦芽、ビール酵母、ホップです。

なかでも、水を除く3つは栄養成分が豊富です。麦芽にはビタミンB群やミネラル、カリウム、マグネシウムが。ビール酵母には食物繊維やビタミンが。ホップにはポリフェノールが多く含まれています。

庶民的なイメージがあるビールですが、その効用は非常に多く「適量を守りさえすれば、ビールはまるで栄養ドリンクのようだ」と言う専門家も多くいる程です。

まずは食欲の増進。ビールに含まれる炭酸が胃を刺激するため、食欲の増進につながります。

ビールに含まれる豊富な栄養成分には動脈硬化や心筋梗塞、狭心症、虚血性心疾患、さらには2型糖尿病の発病のリスクを減らす効果があるとされています。

ビールの強い利尿作用は結石を押し出し、豊富に含まれているシリコンは骨がもろくなるのを防ぎいでくれます。

便秘の解消や疲労回復の効果もあります。

また、脳への血流増加を促進する効果があり、特に虚血性脳卒中の予防につながるされています。

他にもポリフェノールやフィストロゲンも多く含まれているので、女性特有の悩み、肌荒れや冷え性の改善も期待できるといわれています。

ポリフェノールが最も多く含まれているのはワインですが、実はビールはワインの次にポリフェノールが多く含まれているお酒です。

お酒の適量とは?

お酒が大好きな人には嬉しい「Jカーブ効果」と「お酒の健康効果」ですが、注意するべき点があります。

それは、いずれの効果も「適量飲酒」が前提ということです。

「酒は百薬の長」と昔から言われています。

ですが同時に「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそおれ」とも言われています。

百薬の長も飲み過ぎれば、中性脂肪が増加し、HDLコレステロールの低下、LDLコレステロールの増加につながってしまいます。

さらには血圧上昇や高血糖状態を引き起こし、アルコール依存症、振戦せん妄に陥り、最悪の場合は発癌の危険性もあります。

日本でも厚生労働省が推進する「健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)」によると、個人差はあるとしたうえで、「適量」は純アルコールにして、一日平均20gとしています。

ただし、「適量」は人それぞれまちまちです。

体質によってお酒に強い人や弱い人もいます。

なので、一概にビールの適量は〇〇mlで、焼酎は〇〇mlが適量ですとはいえません。

アルコールの代謝には個人差があるので明確に飲酒量を定義づけすることはできないのです。

それを前提とした上で、あくまでも目安として、純アルコール20gというのは、

ビールなら中瓶1本(500ml)、

日本酒なら1合(180ml)、

ウィスキーならダブル1杯(60ml)、

焼酎(25度)ならグラス2杯(100ml)、

ワインなら2杯分(200ml)、

チューハイ(7%)350ml缶1本

が、厚生労働省が定める一日のアルコールの適量に相当します。

また、一般的に女性は男性よりも体脂肪の割合が高いです。

アルコールは脂肪には溶けにくいため、血中アルコール濃度が上昇しやすく、女性ホルモンはアルコールの分解を抑える作用があるので、男性よりも少ない量でもアルコールの影響を受けてしまいます。

そのため、女性の「適量」は男性の半分程度とされています。

Jカーブ効果は、全てに当てはまるわけではない

(出典:「飲酒とJカーブ」, e-ヘルスネット,  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-001.html)

Jカーブ効果は、「お酒を適量を飲む分には死亡率は下がるが、一定量を超えてくると、死亡率が上がる」という現象です。

まさに「百薬の長」の名に相応しい様々な健康効果を持っていることもご紹介してきました。

そして、お酒の持つ健康効果を得ようと思うのならば「適量」を守る必要があるということも分かっていただけたと思います。

ただし、このJカーブ効果、全ての病気、全ての人に対して同じ傾向を示すわけではない点に注意してください。

上の図のように、少量でもリスクが上がる病気もあるからです。

(a)発症率が上がる病気
高血圧・脂質異常症などの人がお酒を飲むと、少量でも正比例で発症率が増加します。

また、癌についてはアルコールそれ自体と、その代謝物であるアセトアルデヒドはDNAを傷つけるので、少量でも発癌のリスクは増加することになります。

(b)少量ならば発症率は変わらない病気

肝硬変は少量のお酒ならばあまり発症率があがりませんが、ある一定の量を超えると急に発症率があがります。

(c)発症率が下がる病気
動脈硬化、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)などは適量の飲酒によって発症率が低下します。

 

これまでの研究データによると、確かに、心筋梗塞のリスクが減るという事実はありますが、高血圧・脂質異常症・癌などのリスクは上がることが分かっています。

動脈硬化や虚血性心疾患のリスクが低下しても、その他の病気のリスク、特に癌になるリスクを考えるとメリットとデメリットで相殺というのが実情ではないでしょうか。

「健康にいいから」とお酒を飲んでいる人はやめたほうがいいかもしれません。

お酒は適量なら健康にいいとは思わず、あくまで嗜好品として、好きだから飲むと考えた方がいいでしょう。

お酒には健康効果もさることながら、何より楽しいものだと思います。

私も昔は愛飲家でしたので、それはよくわかります。

なので、お酒にはリスクがあるのを承知の上で、リスクを上回るほどの楽しみがあると判断して飲む方がいいのではないかと思います。

Jカーブ効果をあまり過信しない

最近の研究では、少量の飲酒でも健康には悪影響があるという報告多くなってきているといいます。

中でも、世界中の愛飲家達を愕然とさせたのが「お酒は適量なら健康に良い」という適量神話を根底から覆す研究の発表です。

それは「Jカーブ効果は、統計ミスだったのではないか?」というものでした。

この研究発表は2016年にオーストラリア国立薬物研究所のターニャ・クリスティー博士らのチームによって報じられました。

クリスティー博士らは、過去の「お酒と健康」に関する論文を収集し、分析していく中で「あることを発見した」といいます。

それは「Jカーブ効果は、病気が原因で禁酒している人達のことを考慮の対象から外している」というものでした。

たとえば重い「肝臓病」の人は禁酒します。

アルコール性肝炎はもちろん、肝炎ウイルスや自己免疫などアルコール以外の原因による肝臓病の場合でも、アルコールは病状を悪化させますので、軽いうちでも禁酒が望まれます。

アルコールと強い関係のある「膵臓の病気」も禁酒が必要です。

飲酒が原因で急性膵炎になったことがあると、少量の飲酒でも再発する恐れがありますし、慢性膵炎の場合、禁酒以外に治療法はないそうです。

「咽頭がん」「膵臓がん」「肝臓がん」アルコール性のがんは多々ありますが「癌患者」にもなれば、もちろん禁酒します。

このようにお酒の飲み過ぎで身体を壊して、これ以上お酒を飲むと死んでしまうというような人も、お酒を飲まない人のカテゴリーに含まれていたということです。

こうした人々はもともと早死にする可能性が高いのに、酒を飲む人と全死亡率を比較する際に、統計に反映されていないというのです。

そうして「病気による禁酒」を考慮しない論文をすべて排除し、残りの論文を改めて分析した結果………

 

「適量の飲酒が、酒を飲まない人より健康で長寿をもたらす」という結果は得られなかったそうです!

 

さすがに、そんな状態の人達を「お酒を飲まない人」に含めると、「お酒を飲まない人」の死亡率が高くなるのは当然で、これはおかしいということです。

このような統計をすればタバコも「全く吸わない人よりも、少量喫煙する人の方が死亡率が低い」ということになってしまいます。

つまり「適量の飲酒は健康に良いは統計ミスだった」というのです。

クリスティー博士は「原因と結果を取り違えている」と指摘しています。

健康だからお酒をめるわけで、お酒を飲むから健康になるわけではないようです。

お酒は大量に飲めばアルコール依存症になることから、ほとんどの人にとって飲酒量は少なければ少ないほど良いと言っています。

実際に、2018年の195ヵ国・地域を対象にしたメタ解析では「健康上の害を最小にするアルコール消費量はゼロ」という結果が出ています。

つまり、「Jカーブ効果」は観察できなかったということになります。

昨今のもっとも健康に良いとされる「適量の飲酒」「10日ほどに純アルコールにして10g未満」だそうです。

つまり、10日にビールなら中ビン半分、日本酒なら0.5合、ウィスキーならダブル0.5杯、焼酎ならグラス1杯、ワインなら1杯分となります。

大事なのでもう一回書きます。

10日にビールなら中ビン半分、日本酒なら0.5合、ウィスキーならダブル0.5杯、焼酎ならグラス1杯、ワインなら1杯分です。

こ程度の少量飲酒なら健康に良いとはいえないまでも、リスクはゼロと変わらないようです。

………かなりの少量です。

ほとんど飲まないのと変わりません………

まとめとして

お酒のJカーブ効果は現在、専門家の間でも意見が分かれているそうです。

「人や動物の実験でも、適度な飲酒が動脈硬化や冠動脈疾患のリスクを下げることが科学的に証明されている」と反論する専門家がいる一方で、

「飲酒に有益な効果があることは認めるが、癌などの様々な病気のリスクが高まるなど、効果が相殺されることも確かだ」と賛成する専門家もいます。

確かにお酒には「ポリフェノール」や「アミノ酸」などの健康成分が豊富に含まれています。少量のアルコールは(善玉コレステロール)を増やしてくれますし、血小板機能を抑制する効果があるので動脈硬化や血栓形成を予防する働きがあるのは事実です。

しかしお酒の主成分であるアルコールと、その中間代謝物のアセトアルデヒドには発がん作用があることが分かっています。

お酒に含まれる健康成分を、身体に効果があるほど摂取しようとすれば、結局は大量に飲むことになり、アルコールの害が無視できなくなってしまいます。

世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、アルコールをグループ1(確実な)発癌物質とみなしています。

このグループ1には、タバコアスベスト、ヒ素、マスタードガスなどが含まれています。

発癌作用のリスクにおいては、アルコールはこれらと同じグループとみなされているわけです。

そのような理由からも、「健康のためにお酒を飲む」というのはあまりお勧めできません。

「酒は百薬の長だ! 健康にいいんだ!」とがぶがぶ飲んでいては逆に健康を損なうばかりです。

お酒は「命を削るカンナ」とも言われています。

お酒を飲むから健康なのではなく、健康だからお酒が飲めるということをお忘れなく。

健康という財産を大切にしてください。