お酒は鍛えると強くなるは本当⁉ 危険な酵素誘導!

こんにちは。熊本の禁酒カウンセラーの溝尻啓二です。

お酒は飲んで鍛えれば強くなる! という話を聞いたことはありませんか?

私の時は「飲んで吐くを繰り返せばお酒に強くなるんだ!」と先輩達に囃され、半ば無理やり連れまわされていました。

今考えれば、アルハラだったように思わなくもありません(苦笑)。

いかがでしょう?

この記事をご覧になっている皆さまの中にも、大学や職場の先輩や上司から無理やり飲まされた経験がある人も少なくはないのではありませんか?

私は実際、そうやって飲酒を繰り返すうちに強くなりました。

ですがその一方で、何回繰り返してもお酒を飲むと気持ち悪くなるだけで、全く強くならないという人もいます。

今回は「鍛えれば本当にお酒に強くなれるのか」について書いていきたいと思います。

お酒に強い体質とお酒に弱い体質

お酒に強い体質なのか、それとも弱い体質なのか。

それは、はっきり言ってしまえば遺伝子によって決められています。

お酒を飲んだ時に顔が赤くなったり、頭痛、吐き気、めまいなど、悪酔いの症状(フラッシング反応を引き起こす大きな原因はアセトアルデヒドにあります。

アセトアルデヒドは「悪酔いの原因物質」といわれていて、アルコールを分解したあとに生じる中間代謝物で、人体にはアルコール以上の猛毒であり、発がん性があります。

これが体内にたまると顔が赤くなったり、気分が悪くなったりするのです。

そのアセトアルデヒドを分解してくれる酵素が「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」です。

ALDHには複数のタイプが存在します。

1型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH1)は、血中のアセトアルデヒド濃度が高くなってから働き始め、ゆっくり分解する酵素。

2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、血中のアセトアルデヒド濃度が低いときから働き始める、強力な酵素です。

このうちALDH1は個人差があまりありませんが、ALDH2は個人差が非常に大きく、このALDH2の働き具合(活性)によってお酒に強いか弱いかの体質が決まります。

そして、このALDH2の働き具合を決めているのが何かというと、両親から受け継いだ遺伝子です。

ALDH2には、

お酒に強いとされる、分解が速いN型()と、

お酒に弱いとされる、分解能力が低下したD型()があります。

誰でも両親からいずれか一つを受け継ぐので、人間にはNN型、ND型、DD型の3パターンがあることになります。

NN型(活性型)

分解能力が高いN型を二本受け継いでいる酒豪タイプ。顔が赤くならず、アセトアルデヒドを速やかに分解出来るお酒に強い体質。

DD型(失活性型)

分解能力が低いD型を二本受け継いでいる下戸タイプ。お酒に弱いどころかまったく飲めない。アセトアルデヒドをどんどん溜め込んでいくお酒が飲めない体質。

ND型(不活性型。低活性型ともいう)

分解能力が高いN型と、分解能力が低いD型をそれぞれ受け継いだタイプ。全く飲めなくはないが、すぐに顔が赤くなり、アセトアルデヒドの分解が遅いお酒に弱い体質。

 

NN型はアセトアルデヒドをどんどん分解するので悪酔いせず、相当飲めます。

DD型はアセトアルデヒドの分解能力が非常に低く、奈良漬けや、栄養ドリンクに含まれている少量のアルコールでも顔が赤くなります。ごく少量でも悪酔いの症状がでてしまうため、ほとんど飲めません。

ND型はアセトアルデヒドの分解に時間がかかり、アセトアルデヒドが身体に溜まるので顔が赤くなったり、動悸がしたり、酷い状態だと、頭痛や吐き気、嘔吐などの悪酔いの症状が出ます。

もちろん、これらの状態に個人差があります。

NN型で顔が赤くなる人もいますし、DD型でも顔が赤くならない人もいます。

ですが、お酒を飲む方なら、飲んだときに感じる身体の状態で概ね分かると思います。

皆さんは、自分がどのタイプだと思いますか?

お酒に強いNN型ですか?

お酒に弱いND型ですか?

お酒が飲めないDD型ですか?

ちなみに私は、ND型です。お酒を飲むと顔が真っ赤になって、呼吸が荒くなったり、頭痛がして、すぐに眠気がしていました。飲み過ぎてよく嘔吐もしていました。そして、そんな次の日は決まって二日酔いに悩まされたものです。

※自分のALDH2のタイプか知るのに簡易的な方法として『アルコールパッチテスト』があります。

お酒は鍛えれば強くなれるのか?

お酒に強いか弱いかの体質は、生まれつき遺伝子決まっています。そして人種によってもお酒に強いか弱いかの特徴があるのです。

実は人種によってもお酒に強くなれるなれる割合は決まっていて、白人や黒人がほぼ100%お酒に強い体質なのに対して、

日本人の場合は56%がお酒に強い体質。40%がお酒に弱い体質。残りの4%がお酒が飲めない体質になるのです。

つまり日本人の約半数の人がお酒に弱い体質か、飲めない体質ということになります。

 

お酒を飲んで鍛えれば、人種や遺伝子で決まっているこの体質を、鍛えれば強くなれるのか?

という疑問に答えるとすると、ズバリ言ってしまえば「ほぼなれません」が正解です。

 

お酒に強いか弱いかを決めるALDH2の活性ですが、その働き具合は両親から遺伝子によって受継がれ、人種によっても強くなりやすい、なりにくいがあるのです。

つまり、お酒に対する耐性というのは、ひとりひとりのDNAに刻まれた特性であり、生まれ持ったものです。

なので、遺伝子構造を作り替えるなどでもしない限り、後から鍛えることで強くなれるものではないのです。

ですが、実際に鍛えて強くなった人は実際に存在します。

私もそうですが、飲んでたらお酒に強くなったという方は、皆さまの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか?

ひょっとしたら、この記事を読んでいるあなたにも心当たりがあるかもしれません。

お酒は鍛えても強くなることはほぼありません。

敢えて「ほぼ」と付けたのは、例外があるからです。

実は、お酒を飲んで鍛えてもアルコールやアセトアルデヒドを分解するADHALDHの活性は上がりませんが、薬物を代謝する酵素は活性化する傾向があるのです。

たとえば「強くなれる可能性のある人」というのは存在します。

それはND型の人達です。

ND型の場合、ALDH2の活性が非常に低く、最初は限りなく下戸に近い状態なのです。

ですが、飲酒の経験が増えることで、徐々に強さを増していくことができます。

ただ、最初は下戸に近い状態なため、飲酒すると頭痛や吐き気、めまいや、嘔吐、悪酔い、二日酔いといった非常に辛い症状が現れてしまいます。

そのため本当は強い遺伝子も持っているにも関わらず、「自分は飲めない体質なんだ」と思い込んでいる人も少なくありません。

「自分は飲めない」と思い込んでいる人たちが、歳を重ねていく中で「実は飲める」ことに気付くこともあります。

人種によってもお酒に強くなれるなれる割合は決まっていると最初にお伝えしましたね。

日本人の場合は56%がお酒に強い体質。40%がお酒に弱い体質。残りの4%がお酒が飲めない体質になります。

つまり約40%の人が「強くなれる可能性のある人」になります。

その「40%の強くなれる可能性のある人たち」が上記のような経験をして、「お酒は鍛えれば誰でも強くなれる」と一般化して広まったのだと思います。

私の経験からしても、飲酒を繰り返すうちに、アルコールに対する耐性は高まってくることはあります。

しかしその影響は比較的小さい、と専門家は言います。

実際、4%のお酒が飲めないDD型の人がいます。

ALDH2の活性が完全に失われているDD型の場合、いくら鍛えてもお酒に強くなることはないとされています。これを訓練や努力などで克服することは絶対不可能とされていて、大量飲酒すると重篤な状態になり、最悪の場合命を落とす危険があります。

お酒に強くなったと感じるのも、実は脳の神経細胞が機能変化を起こし、感受性が低下しているからだそうです。

脳の感受性が低下することで、機能が麻痺して頭痛や吐き気といった不快な症状を感じ難くなることで「お酒に強くなった」と感じるわけです。

そしてもうひとつ、お酒に強くなる要因の一つとして「酵素誘導」があります。

薬物に関係する酵素を鍛えるとお酒に強くなる

お酒に強くなる要因のひとつとして「酵素誘導」があります。

アルコールは本来、アルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに分解されますが、量が多くなると別の酵素も誘導されてアルコールの分解を助けます。

その酵素がミクロゾーム・エタノール酸化系(MEOS)です。

習慣的に飲酒をするとアルコールの分解が速くなるのは、MEOSが増えるからです。

飲酒を続けてもADHは増加しませんが、MEOSは増える傾向があり、それによってアルコールの分解能力が高くなるのです。

ただし、MEOSはあくまで「アルコールを分解する酵素」であって「アセトアルデヒドを分解する酵素」ではないので、お酒が飲めない「DD型」がお酒に強くなることはありません。

さらに恒常的にアルコールを摂取すると、薬物や有害物質を解毒(あるいは活性化する)する薬物代謝酵素の「チトクローム(CYP)」も誘導され、アルコールの代謝を手助けするようになります。

これを「酵素誘導」といいます。

なぜお酒に薬物代謝が関係あるの? と疑問に思う方もいるかもしれません。

ですが、お酒の主成分であるエタノールは麻酔効果のある向精神薬物です。

なので習慣的に飲酒するようになると薬物を代謝する為の酵素であるCYPの活性も上がります。

CYP酵素の活性が上がると、お酒の量が増えても不調(フラッシング反応)が表れにくくなります。加えて、お酒を飲むと顏が赤くなる人は顔が赤くなりにくくなります。

つまり、お酒に強くなるわけです。

CYPの活性を数値化して見ることは出来ませんが、以前よりお酒に強くなったと実感があれば、酵素誘導によりCYPが活性化している証拠でしょう。

「ほう! お酒に強くなれるのはいいことだ!」と喜ぶ人もいるかもしれませんが、ちょっとまってください。

実は、そう簡単な話ではないのです。

お酒を飲まない生活を続けると、どちらの酵素の活性も下がってしまいます。

酵素の高活性を維持するためには、恒常的に習慣飲酒をする必要があるわけですが、そこに「酵素誘導」の大きな落とし穴があるのです。

酵素誘導のデメリット

恒常的な飲酒で薬物代謝酵素が多量に誘導される体質になると、CYP酵素がアルコールを分解するようになります。

CYPはアルコールを(アセトアルデヒドも含めて)直接、水と二酸化炭素に分解してしまいます。

そのため、多少の量のアルコールでは全く酔わなくなります。

むしろ、酔えなくなってしまいます。

この状態になると、麻酔を含め、ほとんどの全ての種類の薬物に対してCYPが作用してしまうので、薬物が非常に効きにくい体質になります。

大酒飲みには麻酔が効きにくい人が多いと言われるのはこのためです。

CYPが誘導される頃には大量にアルコールを求めるようになり「酒に強くなった」と錯覚します。

ここまでくると、多少のお酒では酔えないため、飲酒量は増大し、それに伴って生活はいわゆる「アル中」状態となります。

健康状態は急速に悪化し、睡眠構造の変化による不眠症、極度の栄養失調、アルコール依存症、アルコール神経炎などを併発し、健全な社会生活が困難になります

まとめとして

お酒に強いか、お酒に弱いか。この体質の差は、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きの差です。

アセトアルデヒドはアルコールが分解された後に生じる代謝産物で、人体には猛毒です。

アセトアルデヒドが身体に蓄積する(血中濃度が上昇する)ことで、顏が赤くなる、頭痛、吐き気、めまいなどの症状が現れます(フラッシング反応)。

このアセトアルデヒドを速やかに分解してくれるのが2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)です。

そしてALDH2の働きの差は遺伝子によって3タイプに分けられているのでした。

NN型………ALDH2の活性が充分にある、お酒に強い酒豪。全体の56%。

DD型………ALDH2の活性がほとんどない、お酒が飲めない下戸。全体の4%。

ND型の型………ALDH2の活性が低い、お酒に弱い体質。はじめは下戸状態だが、強くなれる可能性もある体質。全体の40%

そして白人や黒人にはお酒に弱い体質の人や、お酒が飲めない体質の人ははほとんど存在しません。

逆に、日本人を含む黄色人種の半数以上は、お酒に弱い体質か、全く飲めない体質の人です。

つまり、日本人はもともとお酒に弱い人種といえます。

そして、これらの体質は遺伝子で決められている先天的ものなので、後天的に変わることはありません。

ALDH2の活性が失われているDD型の場合は、お酒をいくら飲んでも強くなることはできませんが、ND型の場合は、例外的に、飲酒の機会を増やすなど「酵素誘導」を繰り返して鍛えれば、ある程度はアルコールに強くなれる可能性があります。

ですがやはり専門家の先生は、お酒を無理に鍛えようと思ってはいけない、と忠告しています。

酵素誘導でお酒に強くなること自体が、すべての人に起こる現象ではないため、全員が同じようにお酒に強くなれるわけではないのだそうです。

ALDHの活性と同じように、MEOSやCYPの酵素群の働きにも個人差があり、なかには、薬物代謝酵素がアルコールを分解すると、かえって肝臓にダメージを与える物質を出してしまう症例もあるそうです。

そもそも「酵素誘導」で薬物代謝酵素が活発になるのは危険な兆候です。

MEOSやCYPが駆り出されるという事は、ADHやALDHで分解できないほどのお酒を飲んでいるということ。

薬物代謝酵素を駆り出さなければならないほど大量飲酒を続けている証拠なのです。

酵素誘導でいくらお酒に強くなったといっても、ND型の人はNN型の人に比べてお酒が残りやすく、アセトアルデヒドの毒性に長くさらされることになります。

アセトアルデヒドには発がん性があり、なかなか分解されずに体内に長く留まると、様々な癌の原因になるといわれています。

大腸がん肝臓がんになる可能性もありますが、もっとも多いのは食道がんです。

とくに危険なのは、「昔はすぐに顔が赤くなっていたのに、合コンやコンパで鍛えられて飲めるようになった! 今じゃ焼酎、ワイン、ウィスキー、どんとこい! なんならテキーラいっとく?」というような人。

飲酒する人の約半数がこのタイプに該当しています。

ビール1杯でフラフラになってしまうDD型の人は、お酒を飲まない(というか飲めない)ので食道がんにはあまりなりません。

逆に、ワイン1本くらい飲んでも顔色が変わらないNN型の人は、アセトアルデヒドの分解がそもそも速いので、やはり食道がんになることは少ないといわれています。

この中間、ND型の人が毎日飲む生活を続けると、食道がんのリスクが上がります。

「酵素誘導」は例外です。

例外というか、ある意味「裏ワザ」みたいなものです。

あえてやる必要はありませんし、いちど鍛えたからといってずっと強いというわけでもありません。

その強さを維持するには、薬物代謝酵素を駆り出し続けるために、本来の分解能力以上のアルコールを飲み続ける必要があります。

日常的にアルコールが身体に入っているから、その負担に身体が対応してくれているだけだと思います。

その証拠に、飲まなくなるとまた弱くなってしまいます。

無理して鍛え続けていなければ強くなれないのであれば、「鍛えればお酒に強くなる」というのはあり得ないと言っても差し支えないと思いませんか?

もともと飲めない人が飲めるようになったというのは、身体にとっては危険なサインだということ。

そして「もっと飲んで鍛えろよ!」と言って人にお酒をすすめるのは間違いなく危険な行為だという事を理解していただけたなら幸いです。

禁酒カウンセリング tender~テンダー