アルコール脱水素酵素(ADH)とは?
こんにちは。熊本の禁酒カウンセラーの溝尻啓二です。
今回はアルコール脱水素酵素(ADH)について少し詳しくお伝えしたいと思います。
アルコール脱水素酵素はアルコールデヒドロゲナーゼとも呼ばれます。
以前の記事で紹介したアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アセトアルデヒド脱水素酵素)とよく似た名称で紛らわしいですね(苦笑)。
(詳しくはこちらの記事:アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)とは?)
アルコール脱水素酵素(ADH)とアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)。
アルコールデヒドロゲナーゼとアルデヒドデヒドロゲナーゼ………長いうえに舌を噛みそうな名前です。
ですが、これら二つはアルコールの分解の要となる非常に重要な酵素なのです。
アルコール脱水素酵素(ADH)は肝臓に多く存在し、エタノールを摂取したときに働きます。
また、アルコール脱水素酵素の大部分は肝臓に存在しますが、少量は胃、腸、賢、網膜、脳にも存在しています。
では最初にアルコール分解の仕組みを、簡単に説明したいと思います。
アルコールの分解の流れ
お酒を飲む………
アルコールは胃腸から吸収され、肝臓に送られる
↓
➀アルコール………
肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)により、毒性物質のアセトアルデヒドへ分解される
↓
➁アセトアルデヒド………
肝臓でアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、無害な酢酸へ分解される
↓
③酢酸………
肝臓でさらに二酸化炭素・水へと分解される
↓
二酸化炭素・水………
呼吸や尿となって体外へ排出される
まず、お酒を飲むとアルコールは胃腸で吸収され、肝臓に届きます。
そして「アルコール脱水素酵素(ADH)」の働きでアセトアルデヒドに分解され、さらに「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」の働きで無害な酢酸に分解。
そうして酢酸はやがて水や二酸化炭素に分解されて、最終的に体外に排出されるのです。
アルコールもアセトアルデヒドも酵素の働きで分解される
「酒酔い」には2種類があるのをご存知ですか?
アルコール(エタノール)による酒酔いと、アセトアルデヒドの毒性による酒酔いです。
前者は脳に作用する酒酔いで、後者は身体に現れる酒酔いといえます。
肝臓で処理できなかったアルコールは血液に戻され体内を巡り、脳などを麻痺させます。これがエタノールによる酒酔いです。
肝臓で処理できなかったアセトアルデヒドも血液に戻され体内を巡ります。そして顔が赤くなる、冷や汗が出る、血圧の上昇、頭痛や吐き気、めまい、悪心などの身体的な反応(フラッシング反応)となって現れ、悪酔いや二日酔いの原因になります。こちらがアセトアルデヒドによる酒酔いです。
このアルコールとアセトアルデヒドを分解してくれるのが、肝臓に存在するアルコール脱水素酵素(ADH)とアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)なのです。
このふたつの酵素は人間なら誰でも持っている酵素です。
ですがその活性には大きな個人差があり、このふたつの酵素の働き具合は遺伝子によってあらかじめ決められています。
(詳しくはこちらの記事:アルコールパッチテスト)
一般的に、アセトアルデヒド脱水素酵素の働きは具合は、お酒を飲むと顔が赤くなるか顔が赤くならないかなどの体質を決め、アルコール脱水素酵素の働き具合はお酒が残りやすいか残りにくいか(アルコールの分解が遅いか早いか)の体質を左右するとされています。
1B型アルコール脱水素酵素(ADH1B)
1B型アルコール脱水素酵素(ADH1B)は、エタノール(アルコール)をアセトアルデヒドに分解してくれる酵素のひとつです。
かつては「ADH2」と呼ばれていたそうです。今の呼び方は「ADH1B」。
ADH1BにもALDH2と同じように酵素の活性タイプがあります。
そのタイプは「低活性型」「活性型」「高活性型」の3種類に分けられます。
遺伝的にADH1Bの活性が低い人は、飲酒で顔が赤くなりなりにくく、大量に飲酒した場合、翌日に酒臭くなりやすいことが知られています。
「え? 顔が赤くらないってことはお酒に強いって事でしょう? なのに酒臭いってどういうこと!?」
っと、思った方も多いのではないでしょうか?
実は、これは別に矛盾した話ではないのです。
少しご説明しますね。
上記で、酒酔いには2種類あるとお伝えしました。
脳に作用すると酔いと、身体に作用する酔いですね。
そして身体に作用する酔いは、アルコールを分解した後に生じるアセトアルデヒドの毒性によって引き起こさるのでした。
アルコールと同じく、肝臓で処理しきれなかったアセトアルデヒドは血液に戻され、全身を巡りることになります。
そのときフラッシング反応(顔が赤くなる、頭痛、吐き気、嘔吐、動悸、めまい、悪心などの症状)引き起こします。
一般的にアルコールに強い体質と言われる人は、このアセトアルデヒドを分解するALDH2の活性が高い人達のことです。
そのため不快なフラッシング反応を感じずに飲酒ですることができるのです。
1B型アルコール脱水素酵素(ADH1B)の働きを調べる飲酒実験では、
低活性型では高活性型に比べてアセトアルデヒドの初期反応速度が40倍遅く、エタノールの消失速度が11~18%以上も遅いという結果が出ているそうです。
ビール一本程度の飲酒実験ではアルコールの分解速度の差ははっきりしなかったそうですが、低活性型の人は最初の一杯を飲んでから、アセトアルデヒドの発生が遅いため、フラッシング反応が弱いことが多くの実験で証明されているそうです。
つまりアセトアルデヒドの発生が緩やかなため、感じるフラッシング反応が弱くなるわけです。
そのためどんどんお酒を飲むことができてしまいます。
ですが、低活性型はアルコールの分解スピードも遅いので、大量飲酒した場合、飲酒翌日までお酒が残ってしまう、いわゆる酒臭い体質になってしまうのです。
お酒が残りやすいにもかかわらず大量飲酒ができてしまうため、低活性型ADH1Bの人はアルコール依存症になりやすいとされています。
日本人では約7%の人が低活性型ADH1Bといわれています。
そして、アルコール依存症患者の人の30%の人が低活性型なのだそうです。
また、低活性型ADH1Bのは飲酒量増加で発癌をの可能性を高めるだけでなく、同じ量の飲酒では、低活性型の人の方が食道や咽頭の癌になりやすいこともわかってきているそうです。
まとめとして
お酒に強いか弱いかは、2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性が高いかどうかで決まり、
お酒を速く分解出来るかどうかは、1型アルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性が高いかどうかで決まります。
そして、その酵素の働き具合は遺伝子によってあらかじめ決められています。
人種的に見てみても「お酒に弱い」「下戸」というのは日本人などの黄色人種にだけ見られる特徴で、白人や黒人にはほとんどみられません。
つまり、私たち日本人は体質によってアルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが異なるのです。
なので自分の体質をきちんと理解して、それに見合った、お酒と付き合い方を学ぶ必要があると思います。
たとえば、ADH1Bは低活性型なのにALDH2は活性型の人の場合を考えてみてほしいのですが、
その人の場合、ADH1Bは低活性型なのでアセトアルデヒドの発生が緩やかです。
そして、ALDH2は活性型なのでアセトアルデヒドの分解が速く、顔も赤くならず不快なフラッシング反応をほとんど感じません。
そのため、どんどんお酒を飲めてしまいます。
ですが、やはりADH1Bは低活性型なのでアルコールは抜けにくく、残りやすく、アルコールの影響を長時間受けることになります。
結果として大量飲酒になり、急性アルコール中毒やアルコール依存症、発癌のリスクを高めてしまうことになってしまうのです。
ただし、お酒に弱いという体質というのも、決して悪い事だけではありません。
フラッシング反応は非常に辛く不快なため、飲酒を諦める人も少なくありません。
それは大量飲酒やアルコール依存症の遺伝的な抑制にもなっているともいわれています。
現に、活性型しか存在しない白人・黒人の社会である欧米などでは、アルコール依存症が深刻な社会問題となっています。