「身体の酒酔い」と「脳の酒酔い」。お酒には2種類の酔いがあった⁉
こんにちは。熊本の禁酒カウンセラーの溝尻啓二です。
今日はアルコールによる「酔い」。いわゆる「酒酔い」について少し詳しくお伝えしたいと思います。
皆さんは、お酒には2種類の酔いがあるというのをご存知でしょうか?
お酒を飲んでしばらくすると、気分が清々しくなり、陽気にったり、気が大きくなったりします。
そして、顔が赤くなったり、体温が上がったり、息が激しくなったり、人によっては頭痛や吐き気などが現れます。
実はこれらは、アルコールに含まれるエタノールが脳の機能を麻痺させることによって引き起こされている「酒酔い」と、体内でアルコール代謝の中間生成物のアセトアルデヒドによって引き起こされている「酒酔い」の、言わば別々の「酒酔い」だったのです。
エタノールの酒酔い
アルコールの主な作用はふたつ
【麻酔効果】と【不安の解消】です。
前者は脳がマヒして麻酔がかかったようになって、痛みを感じなくなり、
後者は脳内物質のGABAを増やすので、抗不安薬と同じ効果があります。
お酒を飲んで体内にアルコール(エタノール)を取り入れると、その飲酒量に応じて脳の麻痺がおこり、酒酔い状態になります。
脳の神経細胞を包む細胞膜の成分は、脳の部位によって違い、アルコールを通しやすいところと、通しにくいところがあります。
脳の麻痺(抑制ともいう)は、アルコールを通しやすいところから徐々に浸透し麻痺していきます。
人間の脳は大まかな構造として、ざっくり三種類に分かれています。
その脳の構造と行動様式から、人間の脳は、
「爬虫類脳」⇒「旧哺乳類脳」⇒「新哺乳類脳」の順番に進化し、機能を追加して高度化させてきたと考えられています。
これを、『脳の三層構造説の仮説』と言います。
(詳しくはこちらの記事:アルコールが脳に及ぼす効果と影響!)
脳の麻痺は、まず「新哺乳類脳」から始まります。
新哺乳類脳は、大脳新皮質と呼ばれる部位で言語機能や記憶・学習能力、創造的思考能力など、高次脳機能の中枢で知性・知能の源です。
そのため判断力、集中力、抑止力等が低下します。
その結果、普段は大脳新皮質によって抑制されている旧哺乳類脳の機能が表層化ます。
旧哺乳類脳は海馬、帯状回、偏桃体といった大脳辺縁系から成り立ちます。ここは快・不快という本能的情動や感情、行動を起こす機能を担う部位です。
アルコールにより知性的な新哺乳類脳の働きが麻痺されるので、普段は抑制されている旧哺乳類脳の働き(本能や感情)が顕わになるため、軽い興奮状態となり、気が大きくなったり、気分が良くなったりする「酒酔い」状態となります。
普段大人しい人が大声で喋りだしたり、「笑い上戸」「キス魔」「脱衣癖」なども、エタノールで新哺乳類脳の働きが麻痺したことで、普段は抑制されている旧哺乳類脳の働きが顕わになった結果といえます。
アセトアルデヒドによる酒酔い
体内でアルコールを分解するときに中間代謝物として生み出されるアセトアルデヒドは有毒物質です。
これが血中に蓄積されると心拍数が増加したり、嘔吐、皮膚の紅潮などの状態が引き起こされ、酔った状態になります。
この「アセトアルデヒドによる酔い」は、「エタノールによる酔い」とは別症状です。
アセトアルデヒド脱水素酵素の活性タイプによっては、この症状が現れる人と現れない人がいます。
一般的にお酒に強いとされているのは「アセトアルデヒドによる酒酔い」対して強い人ということで、「エタノールによる酒酔い」に強いという意味ではありません。
抗酒剤というアルコール依存症の治療に用いられる薬があります。
これはアセトアルデヒドを分解するALDH2の活性をわざと妨げる薬で、これを投与すると、少量飲んだだけで動悸が激しくなり、顏が真っ赤になります。
真っ赤になるだけでなく、頭痛、嘔吐、めまいなどの非常に辛い症状(フラッシング反応)も出ます。
お酒に強いタイプの人は、このアセトアルデヒドをすぐに分解できるため、その症状をほとんど感じない=お酒に強いということです。
また、アセトアルデヒドは二日酔いの原因物質ともされています。
頭痛、嘔吐、吐き気、喉の渇き、胸のむかつき、身体の震え、悪心などの症状はアセトアルデヒドが体内に残り続けている影響です。
アセトアルデヒドに強いとされている人でも、その分解能力には限界があるので、自分の限界を超えて飲酒をすると二日酔いの症状が現れます。
大量飲酒などでアルコールがアセトアルデヒドに分解されず、まだアルコールのまま残っている場合は、酩酊感、ふらつき、ろれつがまわらないといった「エタノールによる酒酔い」の症状が残っていることもあります。その場合、「脳の麻痺」の影響もあって、不快感は少ないのですが、早かれ遅かれ「アセトアルデヒドによる酒酔い」の状態がやってくるのは避けられません。
余談ですが、飲酒後に、短時間に現れるものを「悪酔い」といい、この「悪酔い」が翌日になって現れている状態を「二日酔い」と呼びます。
危険な酒酔いはどっち?
「アセトアルデヒドによる酒酔い」は、「二日酔い」となって現れます。
自身の代謝能力以上のアルコールを摂取したことで引き起こされる不快な身体状態です。
アルコールがアセトアルデヒドに代謝され、体内に残ったそれが二日酔いの症状を引き起こすとされています。
二日酔いでは直接的な命の危険に晒されるわけではありませんが、頭痛や吐き気など著しく不快な症状が現れます。
また、肉体的だけでなく、精神的にもひどい自己嫌悪に陥る場合も多いです。
では、「エタノールによる酒酔い」の場合はどうなるのでしょうか?
アルコールは脳を麻痺させる性質を持っているとお伝えしました。
アルコールの本来の作用は「麻酔効果」。
その本来の性質は脳の機能を抑制させることにあります。
エタノールを摂取すると、その飲酒量に応じて脳はどんどん麻痺していくことになります。
飲み始めは大脳新皮質の麻痺で、爽快な気分が味わえるのですが、しかし、これ以上、飲み続けると、アルコールの影響は脳の深い部分へと及ぶことになります。
アルコールを飲み続けると、
まずは高度な知的活動をする「大脳新皮質」が、
次いで、情動や感情などをつかさどる「大脳辺縁系」が、
最後に生命維持に重要な機能を果たしている「脳幹」が順番に低下していきます。
その過程で、酒酔いは「ほろ酔い」から「酩酊」、「泥酔」、「昏睡」へと移っていくのです。
そうして最終的には脳の中枢神経までもを麻痺させてしまい、呼吸機能や心肺機能を停止させて死に至ることになります。
まとめとして
私たちの体内にはアルコールを貯蔵する仕組みがありません。
なので、小腸で吸収されたアルコールの90%以上は肝臓が素早く代謝してくれます。
もちろん、肝臓の代謝能力の範囲内であればですが。
肝臓の代謝能力を超えた分は、血液に戻されるので血中のエタノール濃度が上昇し「酔いの度合い」が深くなります。
そして酒酔いには、エタノールによる「脳の麻痺」と、体内でのアルコールの代謝の過程で生じるアセトアルデヒドの毒性による「酔い」の二種類があるのでした。
「脳に作用する酒酔い」と、「身体に作用する酒酔い」です。
そして、お酒に含まれるアルコールを摂取すると、私たちは酔っぱらいます。
「アセトアルデヒドによる酒酔い」とは関係なく、「エタノールによる酒酔い」は、血中のアルコール濃度に比例するとされています。
つまり、「エタノールによる酒酔い」は、摂取したアルコールが体内でアセトアルデヒドに分解されるまでに、アルコールによって脳に生じる酔いなので、お酒に強い体質、お酒に弱い体質
という「アセトアルデヒドによる酒酔い」とは関係がないということです。
飲酒を進めれば、血中のアルコール濃度はどんどん上昇し、下記のように「酔いの度合い」を深めていくことになります。
爽快期………血中濃度0.02~0.04%
↓
ほろ酔い期………血中濃度0.05~0.10%
↓
酩酊初期………血中濃度0.11~0.15%
↓
酩酊期………血中濃度0.16~0.30%
↓
泥酔期………血中濃度0.31~0.40%
↓
昏睡期………血中濃度0.41~0.50%
そして血中アルコール濃度が0.4%を超えた場合、1~2時間で約半数の人が急性アルコール中毒で死亡するとされています。
この急性アルコール中毒の発生には、一般的に言われている「お酒に強い体質・お酒に弱い体質」は一切関係がありません。
あくまでも血中のアルコール濃度、つまり、飲んだアルコールの量に比例して誰でも陥る可能性がある急性中毒なのです。
アルコールの本質は「脳機能の麻痺」にあります。
アルコールを摂取すると麻痺は大脳辺縁系から呼吸や心臓の動きを司る脳幹部にまで進みます。
そして最終的には、生命維持にかかわる脳の中枢神経までもを麻痺させてしまい、呼吸機能や心肺機能を停止させて死に至るのです。
この中枢神経を麻痺させる効果で死亡するとい作用は、実は睡眠薬の飲み過ぎで死亡するものと同じものなのです。
実際、お酒の主成分のエチルアルコールは向精神物質で、人間の不安感、抑うつを感を抑える効果があります。
ですが、作用量と致死量の関係で見てみると、
作用量(ほろ酔い期)の血中アルコール濃度0.05%~0.1%。
致死量は血中アルコール濃度0.4%以上とされています。
このように作用量と致死量が1:4程度に近接している「いわゆる向精神薬」はアルコールのほかに例がないほどで、実はほんの少し飲み過ぎただけで死亡する危険性があります。
お酒の飲み過ぎには、くれぐれも注意してください。