身体や心に不調が出ていても、それがストレスのせいだと気づいていない場合は多いものです。
わかっていても解決できないからストレスなのかもしれません。いえ、そもそも「ストレス」とはいったいなんなのかわからないものです。

ストレスは心身両面に現れます

以下に簡易的なチェック項目を用意してみました。最近の2~3ヵ月について下記のようなことがなかったかチェックしてみるとよいでしょう。

☐朝起きられず、朝がいちばん気分がすぐれない
☐仕事や家事の能率が悪く、失敗が多い
☐決断に時間がかかったり、責任感がなくなる
☐考えこんだり、イライラ、セカセカする
☐人と会うのが億劫になる
☐気分が落ち込み、泣いたり、泣きたくなる
☐身体の調子が悪い事が多くある
☐食事や飲酒の量が大きく変わった
☐家族や友人への不平不満、反発がある
☐寝つきがわるくなった

・チェックの数による判定
3~4  ゆとりを失っている。リラックスが必要。
5~7  ストレスがかなりたまっている。休養が必要。
8~10 要注意。専門家に相談してみましょう。

自分ではストレスに気づきにくい

高揚感や快感を求めてしまう背景には、ストレスがあります。ストレスが日常化していると、それに気づきにくいものです。また、あれもストレスこれもストレスと一般化している場合もあります。まずはストレスの本質を知り、観察するこから始めましょう。そしてストレスをみつけ確認したら、最適に対処していくのが望ましいです。
ただ、人間関係のストレスは相手があること。相手の性格や態度が気に入らないといっても、簡単には変えられないものです。無理やりにでも変えようとすれば抵抗され、反撃されることもあります。自分の見方を変える方が早道です。

ストレスのとらえ方

私たちはストレスという言葉を日常的に使っています。ですが、ストレスとはいったいなんなのでしょうか?「これがストレスです」と、目に見える形で説明するのは難しく、一概に言えるものではないだけに、考えれば考えるほどすわからなくなってしまう「ストレス」。

実はストレスのきっかけも症状も人それぞれなのです。ですので、そのひとつひとつに適切に対処することがとても重要になります。その為には、まずはストレスが何かということを知る必要があります。まずは『ストレス』というモノのとらえ方についてです。

たとえば、『上司に怒られた』という体験をしたとします。しかし、この同じ体験をしても、これをストレスと感じる人もいれば、ストレスと感じない人もいます。これは問題のとらえ方に対する個々人の違いであり、反応は十人十色。つまり「ストレスにはこう対処しなさい」と一般化できないのです。

また、ストレスを完全になくすことはできません

ストレスは、私たちが気づかないうちに心と身体に忍び寄り、巣くい、蝕んで、ときには健康をも脅かしかねない恐ろしいものですが、それを完全にゼロにすることは不可能です。私たちは『世界のすべてを自分の思い通りにすることはできない』からです。
思い通りにならない事でイライラしたり、悲しくなったり、恐怖を感じたり、無力感を感じたりしたなら、それはストレスです。また、精神的な痛みだけではなく肉体的な痛みも、脳のレベルでは『痛み=ストレス』なのです。ひとりで生きていてもストレスを感じるのだから、社会を形成し、人との関わりの中で暮らしている以上、ストレスのきっかけは無数に存在するといえます。
大事なことは、ストレスに気づき、自分なりの適切な対処を学び、「ストレスとうまく付き合う」ことなのではないでしょうか?

ストレッサーとストレス反応

心理学の世界では、ストレスを「ストレッサー」と「ストレス反応」の2つにわけてとらえています。

【ストレッサー】
ストレッサーとは、あなたを苦しめる様々な「ストレス環境」のことを言います。
「仕事できない同僚」や「口先だけで仕事しない上司」といった人間関係から、「満員電車」「交通渋滞」「気温・湿度」などの文字通りの環境もストレッサーになります。また、「結婚」「就職」「昇進」「出産」など、本来なら祝福するべきポジティブな出来事が、『環境の変化』や『責任の発生』などによってストレッサーになることもあります。

【ストレス反応】
ストレス反応とは、ストレッサーに対するあなたの『心と身体の反応』です。「イライラする」「落ち込む」「不安になる」といった心の反応から、「胃が痛くなる」「頭痛がする」「吐き気がする」「動悸がする」「息苦しくなる」など身体の反応がそれに当たります。

『ストレス』は、必ず『ストレッサー』と『ストレス反応』が対になっているものなのです。

ストレッサーに対するストレス反応は、人それぞれです。たとえば、同じ「仕事が忙しすぎる」という状況でも、ある人にとってはそれがストレスとなり、ある人にとっては「自分が成長できるチャンス」「ここで点数を稼げば、出世できる」と、奮起する材料になることもあります。後者の場合、「忙しすぎる仕事」はストレッサーになることはなく、ストレス反応も生まれません。
つまり、「ストレス」は、きっかけも反応も個人的な体験であり、「こういう問題にはこう対処しなさい」と、一般化できないのです。
そのため、自分にとっての「ストレッサー」と「ストレス反応」に気づくことがとても大切な第一歩となります。なぜなら、気づかない限りそのストレスは自分と完全に同一化していて分離することができません。気づくことで初めて自分自身とストレスとを切り離して考えられるようになるからです。

セルフモニタリング(自己観察)

自分で自分のストレスに気づくことを、心理学の世界では「セルフモニタリング(自己観察)」といいます。つまり『ストレスに気づき、観察し、理解すること』だと思ってください。ストレスは『ストレッサー』と『ストレス反応』が対になっているものです。セルフモニタリングは、この両方に対して行いますが、とくにストレス反応に対しては、『認知』『気分・感情』『身体反応』『行動』の4つに分けて考えます。

【認知   】頭に浮かぶ考えやイメージ
「今日もあいつと一緒のシフトかよ」「今日も残業かな」「あー………また今月、課金しちゃったなぁ」「げ………職場から電話だ。何かミスしたかな」………等

【気分・感情】心に浮かぶさまざまな気持ち
「イライラ」「不安」「怒り」「驚き」「辛い」「悲しみ」「憂鬱」………等

【身体反応 】 =身体に現れる様々な生理現象
「鼓動が早くなる」「頭が痛い」「眩暈がする」「肩がこる」「胃が痛い」「気分が悪くなる」「眠れない」「熱が出る」「汗が出る」「喉が渇く」「息苦しい」………等

【行動   】 =ストレッサーに対して自分の取った振る舞い、動作
「怒る」「わめく」「無視する」「睨みつける」「深呼吸する」「ゲームをする」「何かを食べる」「物に当たる」「タバコを吸う」「お酒を飲む」………等

これらのストレス反応は、独立して存在するのではなく、お互いに影響し合いぐるぐると回り続けます。
何かの拍子に悪い思考が生まれ、それがどんどん大きくなり、状況を悪化させてしまう等は、多くの方が経験していることではないでしょうか?
この『ストレスの悪循環』について少しお話したいと思います。

まず、ストレッサーがなければストレス反応は生まれません。ここでは「周りの人が仕事デキないやつばかりなので、自分がひとりでなんでもやらなければならなくなった」と設定しておきましょう。
そのストレス環境によって「自分ばっかりやらされてる、損してる」という認知が生まれ、「イライラ、怒り」などの気分・感情につながり、やがては「鼓動が早くなる、体温が上がる」といった身体反応が引き起こされます。
逆にカッとして「体温が上がる」という身体反応が引き起こされてから、「私ばかり一人で、他の人の分まで働いてる。だからこんなに熱いんだ」という認知が生まれ、「イライラ、怒り」などの気分・感情へとつながる場合もあります。かならずしも順番通りというわけではありません。
その3つの反応は、相互作用によってどんどん膨らんでいきます。
そして限界に達したときに、最後のストレス反応である「行動」が現れます。
今回の「ひとりでなんでも仕事させられる」という例に当てはめるなら、「怒鳴る」「物に当たる」などの行動が考えられます。
その行動によって、「同僚との中が悪くなる」「場の空気が重くなる」「物を壊して上司に叱責される」「白い目で見られた」などの新たなストレッサーが生まれてしまうでしょう。それが、再びストレス反応を引き起こし………。
これが回り続ける「ストレスの悪循環」です。
ストレッサーによってストレスの「きっかけ」がインプットされ、「認知」「気分・感情」「身体反応」によって増幅されて、最後には必ず「行動」によってアウトプットされます。それがまた新たなストレッサーとなり、いつまでもめぐり続ける。

  環境(ストレッサー)
  ・状況
  ・出来事
  ・人間関係など
    ↓   ↑
    ↓   ↑
   個人(ストレス反応)
     気分・感情
    /     \
  認知       行動
    \     /
     身体反応

これがその構図です。
なんとなく経験としては知っていたと思います。けれど、このように視覚化してみることで「たしかに………」と改めて理解してもらえるのではないでしょうか。

人間関係でストレスを感じたら

【相手を受け入れる】
・寛容という言葉を思い出す。怒ったままでは自分のストレスになるだけです。

【他人の目でものを見る】
・もしも自分が相手だったら、と思いやってみましょう(ただし、相手が善意の人に限る)。

【相手の言うことをよく聞く】
・自分中心に考えていないか、まず相手に集中し、黙って耳を傾けてあげます。

【感情を受け入れる】
・怒りや悲しみを無理に消そうとしないで、ただ感じてみましょう。

【相手を批判しない】
・「あなたは!」と批判して改善されるのでしょうか? やがて会話もなくなってしまうかもしれません。

【自分が幸福になる】
・まずは自分を大切にしてあげましょう。それが結果として相手を大切にすることにつながり、態度が変わってきます。

【以下のような「イヤなタイプ」をあげて見て、どれかにあてはめてみる】
・感情的。気分にムラがある・自分のやり方を押し付ける・規則を言い立て融通がきかない・えこひいき、弱い者いじめ・人に責任転嫁する・細かすぎる・物欲、金銭欲、地位欲が強い、自慢話ばかりしている、経験の枠内でしか考えない・ゴマをする・陰で他人の悪口を言う・些細なことまで仕切りたがる………etc

【そして、上記を分析してみる】
・すべてにあてはまる人はいないので、逆によい点が見えてきます。

・まず「ストレス」と呼ばれるものの構造を知り、それを自己観察してみましょう。
この自己観察の作業は繰り返すたびにどんどん精度は上がっていきます。「自分は、こういう事を言われると弱いんだ」「自分は傷ついたとき、こういう思考が出ちゃうんだ」「同僚のAさんがしょっちゅう登場するから、わたしはあの人が苦手なんだな」というように、自分のストレス傾向に気づくことができます。
ストレス体験を振り返って観察するわけですから、いやな気分になることもあると思います。その感情もしっかり受け止めてください。そこから目をそらすのではなく、むしろ嫌な気持ちほど、「あのとき、自分はいやだったんだなぁ」「つらかったんだなぁ」と受け止めることが大切です。
そして、このストレスを知るという行為自体が、実はこのセルフモニタリング(自己観察)自体がストレスの軽減にもつながります。
人は未知のもの、得体の知れないものを本能的に恐れます。
なぜなら未知のもの、得体の知れないものはコントロールできないものだからです。『コントロール出来ない=危険』と脳が判断してしまうからです。
自分を苦しめている「ストレス」の正体に気づけば、「何もこの程度の事で悩まなくてもいいじゃん!」と納得して、ストレスをすっかり手放してしまえることもあります。
もし、それでストレスの悪循環に気づき、自分の考え方、感じ方のパターンを理解することで、「問題が解決できた」と思うのであれば、それは素晴らしいことです。モニタリングを繰り返せば、自然とストレスを感じにくい体質になってきますし、なかにはモニタリングを習得した段階で、「もうこれ以上のワークはしなくても大丈夫」となる場合もあります。
このように「ストレスを知る」というだけで、ぐるぐるとした悪循環のを断ち切り、そこから抜け出せることがあるのです。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」とはよく言ったものです。
少し抵抗があったり、面倒に感じるかもしれませんが、「自分のストレスを知る」ことには、それだけの価値があるのです。

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